大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和54年(オ)903号 判決 1981年2月16日

上告人

小俣義行

上告人

小俣かね

右両各訴訟代理人

児玉義史

森田昌昭

被上告人

右代表者法務大臣

奥野誠亮

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人児玉義史、同森田昌昭の上告理由第一点ないし第三点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程になんら所論の違法はない。論旨は、独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

同第四点について

国が国家公務員に対して負担する安全配慮義務に違反し、右公務員の生命、健康等を侵害し、同人に損害を与えたことを理由として損害賠償を請求する訴訟において、右義務の内容を特定し、かつ、義務違反に該当する事実を主張・立証する責任は、国の義務違反を主張する原告にある、と解するのが相当である。しかるところ、本件記録及び原判決の判文によれば、上告人らは右の法理に従つて国の負担する具体的な安全配慮義務の内容及び右義務に違反する事実について主張をし、原審もまた、本件事故の原因を確定したうえ、右法理に従つて、被上告人が本件のようなヘリコプターに搭乗して人員及び物資輸送の任務に従事する自衛隊員に対してヘリコプターの飛行の安全を保持し危険を防止するためにとるべき措置として、ヘリコプターの各部部品の性能を保持し機体の整備を完全にする義務のあることを明らかにし、この見地から、上告人らの主張に基づき、被上告人につき具体的に義務違反の事実の存否を判断し、その存在を肯認することができないとしたものであることが明らかである。したがつて、原判決には所論立証責任の法則を誤つた違法があるとは認められない。所論中、原審が、その必要性の認められないことを理由として文書提出の申立を却下したことの違法をいう部分は、ひつきよう、事実審の自由裁量に属する証拠申出の採否につき不服をいうものにすぎず、その他、原判決の判断の過程に所論の違法はなく、所論引用の大審院判例は事案を異にするか、又はその趣旨を異にするものであつて、本件に適切ではない。論旨は採用することができない。

同第五点ないし第一三点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原判決を正解せずしてその判断を論難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(栗本一夫 木下忠良 塚本重頼 鹽野宜慶 宮﨑梧一)

上告代理人児玉義史、同森田昌昭の上告理由

第一点〜第三点<省略>

第四点 原判決は、立証責任の法則を誤り且つ審理不尽・理由不備の違法がある。即ち原審は、(一)『原審は、……この点において特別に問題があつたとは、認められず控訴人ら主張のような欠陥は、之を証するに足りる資料はない』(二五枚裏八行目以下)、(二)『控訴人らのいう機体の原因不明の振動、不調について……前記各証言に照らすと的確な証拠とするに足りない』(二五枚裏一一行目以下)、(三)控訴人ら主張のような機体の欠陥が認められないことは、判示したとおりである。従つて右何れの主張も之を採ることができない』(二八枚七行目以下)、(四)『本件事故当時の航空自衛隊に同機の整備体系について見るに、証人長島国雄……の各証言によれば、同隊の整備規定によりアイラン方式により整備していたのであり云々と説示して右認定を覆えずに足りる証拠はない』(二八枚一〇行目以下〜三一枚八行目)、(五)『ソケットの定期交換は、……累計一、五〇〇時間使用後の交換は、行われていないことが認められる。右認定に反する証拠はない』 (三一枚裏一〇行目以下)、(六)『就航前に控訴人ら主張のような精密検査を行わなければならない整備体系の義務が存しないことは、証拠上認められないから、右精密検査しなかつたことをもつて整備基準に反したものということはできない』(三二枚裏五行目以下)、(七)その他原判決は、随所に『右認定を覆えずに足る証拠はない』(三三枚裏四行目以下)、『該点検が整備基準の趣旨に反し、疎略に行われたることを窺うべき資料は存しない』(三三枚裏一一行目以下)、『本件事故直前の同様について飛行前何らの異常も認められなかつたことが認められるのである。之らの認定に反する証拠はない』(三五枚三行目以下)、『本件のような事故は、事故発生当時全く予測されなかつたことが認められる。右認定に反する証拠はない』(三七枚裏六行目以下)、『同機のような航空機の整備の検査について差を設けていることは、考え難く、そのような事実は、本件証拠上認められない』(三九枚九行目以下)『全立証によつても、之を是認することはできない』(四一枚一〇行目以下)云々と説示して、本件事案における立証責任は、控訴人らにあるが如く解して控訴人らの本訴請求を排斥したのである。然れども、

一、凡そ、損害賠償を請求する者は、請求権発生の原因たる事実を証明すれば足り、債務不履行の事実は、之を立証する責任はない』(大判、大八・七・二二民録二五・一三四四頁、大八・一〇・二〇、同一、八九九頁)のであり、又『債務者において給付義務を免れんとするには、給付の不能が、自己の責に帰すべからざるの事由によることを立証しなければならない』(大判大一四・二・二七集四・九七頁)ことは、夙に判例の認められるところである。

二、しかして、本件事案において、控訴人らの長男小俣朝夫(以下同人という)が、昭和三九年九月一〇日航空自衛隊航空救難郡芦屋分遣隊所属のH―二一型ヘリコプター(以下同機という)に搭乗し、人員及び物資を搭載して見島に向つて出航し、離陸地点から北二、二五カイリ、推定高度六〇〇フィートで運行中突然後部のローダー・ブレード一枚が飛散し、その飛散の原因は、之をさし込んでいたソケットの疲労破断したことに因るものであり、その疲労破断は、ソケットの製造過程において、その内側に生じていたツールマークに応力が集中した結果、九時五九分同機の墜落事故を惹起し、同人ら八名が死亡し、一名が重傷した事実は、原審の適法に確定した事実である。

三、依つて前示判例及び原審の確定した事実とを綜合して観るに、

(一) 同機が、墜落したということは、同機により最早運航を為し得ない状態に陥らしめたのであるから、履行不能を生ぜしめたるに外ならない。しかして同機の墜落に関し、被上告人は、不可抗力又は同人の過失に因つて生じたものである旨の主張をしていなかつたことは、原判文に徴し、詢に明かである。果して然らば、被上告人は、安全配慮義務違反の事実を除き他に反証ない限り、自己の不作為に因り履行不能を生ぜしめたことを自認していたものと謂わねばならない。蓋し、不可抗力又は同人の過失に因つたものでない限り、自己の不行為に因つたものと見るの外はないからである。従つて被上告人は、履行不能が、自己の責に帰すべからざる事由に因つたものであることを立証しなければならないことは、前示判例に徴し明かであるのに、原審は、その理由中の随所に控訴人らの立証をもつては、右認定を覆えずに足りない云々と説示し恰も控訴人ら側に、立証責任があるが如く解したのであるが、之こそ正しく、立証責任の法則を誤りたるの譏あるを免れない。

(二) 殊に本件の如き事案においては、同人及び上告人ら側にあつては、事故発生前に、予め之に関する証拠のあるべくもないことは、その本質上明かであるに対し、被上告人側にあつては、同機のフォーム、ヒストル、カード、整備に関する規定は常時備付けておくべき文書であるから、存しない筈がないし、本件事故後、その調査委員会において調査したる報告書も亦現存することは論を俟たない。被上告人は、何れも現存しない旨主張するも、被上告人が、該委員会を設けて調査せしめた所以のものは、墜落事故は、如何なる部品であつたか等の事実を調査し、もつて後日の参考資料に供するがためであるから、之らの文書を廃棄処分に付する筈がないし現に第一審証人竹崎康允の証言中『その抜すいを見たことがあります』(四一三丁裏)旨の証言に徴しても、容易に知り得るからである。

(1) しかして、之らの文書、就中、右報告書は、本件事案の真相を究明するに最も、重要な文書であるから、上告人らは、昭和五一年六月五日附証拠の申出書に基き同年同月一四日第二回口頭弁論期日に、同五二年一〇月二六日附文書提出命令を求むる申立を同日第一一回口頭弁論期日に各申請の理由として、同五二年六月一五日附書面第一による主張を同年同月二〇日第九回口頭弁論期日に、又同年七月二八日附書面第一による主張を、同年九月五日第九回口頭弁論期日に各陳述していたのである。

(2) 然るところ、原審は昭和五三年九月一一日第一六回口頭弁論期日において『当裁判所昭和五一年(ウ)第四六〇号、同五三年(ウ)第九三一号各文書提出命令申立は、その必要性が認められないので、之らを却下する』として控訴人らの文書提出命令の申立を却下されたのである。

(3) 然れども、控訴人らは、同機の履行不能に陥らしめたのは、被控訴人の有責行為に因つたものであることを立証せんとして念のため、予備的に右調査報告書等の提出命令を求めたのであるから、当事者双方に公平であるべき原審が一方において立証せんとする証拠の申出を封じながら、他方において証明なしとして控訴人らの主張を排斥したるが如きは、証拠に関する重要なる法則の解釈を誤つたものと謂わざるを得ない。

四、従つて原審は、控訴人らが提出命令を求めていた本件事故の調査報告書等を提出援用せしめ、更にかくかくの理由により控訴人らの本訴請求は失当たるを免れないとする審理判断し且つ首肯するに足りる理由を説示していたのであれば格別、原審はその挙に出でずして漫然叙上の判決を為したるは、結局立証責任の法則を誤り且つ審理不尽・理由不備の違法あるを免れない。<以下、省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例